とどまることを知らないAIの進化。この革新に際し「いい大学に入れば将来安泰」という旧来の価値観は揺らぎ、近い将来、ホワイトカラーの仕事はAIに奪われるのではないかと一部では囁かれている。
そんな状況ゆえに、我が子の将来を心配する親御さんは多いのでは奈緒だろうか?
教育・子育てを取り巻く社会課題を調査・研究する「花まる教育研究所」はこのほど、小学生以下の子どもを持つ保護者を対象に「AI時代の中学受験に関する意識調査」を実施し、164名の回答を得た。
1.AI時代に揺らぐ、親の「学歴観」
「AIによって、『いい大学に入れば安定した将来につながる』という考え方は弱まると思いますか?」という質問に対し、「強くそう思う」(28.0%)、「ややそう思う」(47.6%)を合わせると75.6%となった。
従来の“学歴=安定”という価値観に対して、保護者の間で変化が起きていることがうかがえる。一方で、「あまり思わない」(16.5%)、「思わない」(6.1%)という声もあり、AI時代における学歴の価値観は揺れながらも、なお一定の信頼感が残っている様子も見て取れる。
「AI時代でも、有名大学の価値は残ると思いますか?」という問いに対しては、「やや思う」の回答が8割(82.9%)となった。
一方で、「あまり思わない」(7.9%)、「思わない」(1.2%)という回答もあり、“大学ブランド”への評価は残りつつも、その意味合いが変化していることがうかがえる。
2.中学受験は支持される一方、親の葛藤も浮き彫りに
子どもに中学受験をさせたいと思うかについて聞いたところ、「中学受験をさせたい」(41.5%)、「悩んでいる」(40.2%)、「中学受験させたくない・しない」(11.6%)、「わからない」(6.7%)という結果となった。
“受験一択”ではなく、AI時代における教育のあり方そのものを模索している保護者が多く見られた。
また、中学受験をさせたい理由は、「子どもに合う環境を選ぶため」(75.0%)が最多で、次いで「AI時代ほど地頭や思考力が必要」(72.1%)、「学習意欲の高い環境を選びたい」(68.1%)、「将来の選択肢を広げたい」(52.9%)となった。
一方で、中学受験をしない理由は、「子どもの負担が大きい」(73.7%)が最多で、次いで「別の経験を重視したい」(68.4%)、「子どもに合わないと思う」(52.6%)、「公立で十分」(52.6%)となった。
3.100%がAIによって社会や働き方が変わると回答
AIが浸透することで、将来の社会や働き方が変わると思うかを聞いたところ、「かなり変わる」(85.4%)、「少し変わる」(14.6%)を合わせると100%となった。
保護者の間では、AIによる社会や働き方の変化が広く認識されており、将来に大きな影響を与えるものとして受け止められていることがうかがえる。
AIによって将来なくなる職業が増えると思うかについては、「強くそう思う」(55.5%)、「ややそう思う」(42.7%)を合わせると98.2%となった。保護者自身が、子どもたちが大人になる頃には職業構造そのものが大きく変化している可能性を感じていることがわかる。
4.親自身の仕事や働き方にもAIの影響が広がる
「あなたの仕事や働き方は、AIの活用によってすでに変化していると感じますか?」という問いには、「大きく変化している」(29.9%)、「少し変化している」(42.1%)を合わせて72.0%となった。
「お子さまに、自分と同じ(または近い)職業についてほしいと思いますか?」という質問には、「思わない」が63.4%と6割超にのぼった。
背景には、AIによって仕事の在り方が変わる不透明感や、「これからは親世代とは違う力が必要になる」という感覚があると考えられる。AIによる変化は、もはや未来の話ではなく、保護者自身の日常や働き方にも及んでいることがわかる。
5.「答えのある問題を解く力」でいいのか、AI時代の子育てに戸惑う保護者の声(自由記述)
・「AIが進化している今、受験で求められる“答えのある問題を速く正確に解く力”はなくなると思う。そんな世界を生きる子に『良い学校に入った方がいい』とは言えない。大人の決めた正解を答えるだけの子にしてはいけないと強く思う」(40代・小6/中学生/高校生以上の母)
・「学歴社会からAI時代への過渡期だと感じる。子どもが社会に出る頃にどれだけ変わっているのか、それにより志望校もがらっと変わるので予想が難しく、不安を感じる」(40代・小5の母)
・「暗記や事務作業の価値が下がる中、中学受験でそうした能力を求められ対応するのは“時間がもったいない”という感覚もある。学校にも塾にも進化してほしい」(40代・小2/小6の母)
・「学歴はインフレを起こし価値は基本的に低減する。一方で、逆に学歴は“最低限の信頼を保証するもの”になるかもしれない」(50代・小5の父)
AI時代の子育て全般への不安としては、次のような声も寄せられた。
・「デジタルネイティブの世代に何を伝えていくべきなのか分からない」(40代・未就学児(5才)/小3の母)
・「何でもすぐに答えを知りたい、正しいものは何かを基準にしてしまう怖さを感じる」(40代・小4/小6の母)
・「親よりも子どもの方がAIに習熟していく中で、適正なAI活用のため親がどう機能できるか」(40代・小2の父)
考察(花まる教育研究所 所長 高濱 正伸氏)
今回の調査で最も印象的だったのは、一見矛盾する二つの結果が同居していたことです。「いい大学=安定」という考えは弱まる(75.6%)。それでいて、有名大学の価値は残る(82.9%)。これは矛盾ではなく、学歴の“意味”が変わったことの表れだと受け止めています。
かつて学歴は「将来の安定を保証するもの」でした。しかしAI時代に入り、その意味は変わりつつあります。保護者が学歴に見いだしているのは、もはや将来の成功を約束する“保証”ではなく、先の読めない時代における“保険”です。
ある保護者が「学歴はインフレで価値が下がる一方、最低限の信頼を保証するものになる」と書いてくださったのは、まさにこの感覚でしょう。学歴は保証から“保険”へ。学歴の価値がなくなったのではなく、その意味が変わり始めている。今回の結果からは、保護者がその変化を感じ取りながら、中学受験の意味を改めて問い直している様子がうかがえます。
象徴的なのは、受験をさせたい理由の上位に「AI時代ほど地頭・思考力が必要」(72.1%)が並んだことです。これは“学歴を取るため”の受験から、“変化の時代を生き抜く力を育てる環境選び”としての受験へと、動機そのものが移っていることを示しています。
AIによって知識へのアクセスが誰にでも開かれるほど、重要になるのは「自分で問いを立てる力」「人と協働する力」「試行錯誤しながら考え抜く力」です。教育は、「知識量を競うもの」から「人間としての土台を育てるもの」へと、シフトしていく必要があります。
保護者自身もAIによる働き方の変化を感じており、自分たちが歩んできたキャリアの延長線上に子どもの将来を描きにくくなっていることもうかがえます。大切なのは「受験するか・しないか」という二項対立ではなく、その子にとってどんな環境が最適かを見極めること。AI時代だからこそ、人間にしか育てられない力をどう育むかが、これからの教育の本質になっていくと考えています。
<調査概要>
調査実施日:2026年5月26日~6月1日
調査対象:花まるグループ提供サービスの会員及びフォロワーで小学生以下の子どもを持つ保護者
有効回答数:164名
調査方法:インターネット調査
出典元:花まる教育研究所
構成/こじへい







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