close

ニュースイッチ

都会の一等地に広さテニスコート7面分…東京・原宿の空き地に出現した畑の正体

都会の一等地に広さテニスコート7面分…東京・原宿の空き地に出現した畑の正体

国や渋谷区に粘り強くかけ合った安西さん(右)とコンポスト東京副代表理事の西川美和子さん

東京・原宿の空き地に畑が出現した。都会の一等地でありながら、広さはテニスコート7面分。市民団体が国有地を使って期間限定で始めた畑だ。企業も協力し、未利用資源を栽培に活用する循環型農業を実験する。都会では希薄な住民の交流の拠点にもして、防災にもつなげる。

使用済み布団綿を活用 生ゴミ堆肥化

若者や外国人観光客でにぎわう原宿の中心部を抜け、小さなショップやオフィスが並ぶ道を進むと「原宿はらっぱファーム」がある。坂の上に位置しており、新宿の高層ビル群を見通せる。

住宅やビルに囲まれているが、畑一面にはしっかりと太陽光が届いていた。もともと印刷局の官舎があったが、取り壊されて空き地になっていた場所だ。NPO法人コンポスト東京(東京都渋谷区)の安西美喜子代表や地元住民が国や渋谷区に働きかけ、畑として利用させてもらえることになった。

企業が協力し、未利用資源を使った栽培をする実験の畑

近隣には狭い敷地でも菜園を楽しむ人がいた。「空き地が畑になると聞いて、感動して泣きながら喜んでもらえた」(安西代表)という。国が渋谷区に管理を委託し、地元住民でつくる「都市農地と防災のための菜園協議会」が同区から再委託を受け、4月中旬から畑の運営を始めた。

企業も歓迎し、協力している。木枠で囲んだ12の畑があり、入り口側の「実験の畑」の土の下に綿が敷かれている。「おたふくわた」ブランドの寝具を展開するハニーファイバー(福岡市博多区)が、使用済みの布団の綿を提供してくれた。綿は吸水力も保水力もあり、農作物の成長を助けると期待される。

不用となった布団の多くが粗大ゴミとして廃棄されている。綿を敷かなかった畑と比べて効果があると分かれば、農業が綿の再利用用途となって布団の廃棄を減らせる。実験の畑は他にもあり、企業などが未利用資源を提供して効果を検証している。

畑では他にも、資源循環を徹底している。農園の真ん中には、生ごみを堆肥にするコンポストが置かれている。近所の家庭や商店から生ゴミを集め、堆肥化して畑に入れる。畑を囲った木枠もリサイクルする。

住民参加、交流の場に

住民が参加して野菜を育てる畑もある。安西代表によると「子どもに野菜作りを体験させたかった」「自分で育てた野菜を食べたい」「土に触りたかった」と“都会らしい”動機が目立つ。

参加者をグループに分けており、例えば曜日ごとに水やり当番を決めるなど全員に役割がある。「あえて知らない人同士がグループになるようにした。コミュニティーづくりになる」(安西さん)と期待する。同じ街に暮らしている人でも交流に乏しく、グループ作業はお互いを知るきっかけになる。「災害が起きた時、顔と名前と知った人がいるだけでも違う」(同)と防災への備えとして期待している。参加者の職業はバラバラであり、「普段なら出会わない人が、知り合いになれている」(同)という。

都会にできた畑は、地域の人を引き寄せる求心力を持ち始めた。取材中にも、畑に入ってきて安西さんに質問する人が数人いた。近くを通るたびに、空き地にできた畑を気にしていたという。オープン時には、インターネットで農園の存在を知った近隣の企業の従業員が訪ねてきて、雑草取りや石拾いを手伝ってくれた。

地域に根を張り始めた畑だが、期間限定。国との約束で26年1月末になると、畑を撤去しないといけない。利用者だけでなく、土壌の研究者からも続けてほしいという声が届いている。企業や住民によって耕され、芽吹き始めた「原宿の畑」が地域にどのような果実もたらすのか、収穫が待ち遠しい。

一方で、東京都内の農地は減り続けている。都内の農地は22年時点で6290ヘクタールで、都の面積の2%。15年と比べ840ヘクタールが失われた。区部に限ると農地は444ヘクタール(21年)と少なく、都市部の畑は貴重となっている。

日刊工業新聞 2025年06月06日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
記事に書ききれないくらい、現地ではたくさんの取り組みをしていました。すべてを伝えられないですが、地域の住民・企業の思い、農業への関心を感じました。

編集部のおすすめ