close

ニュースイッチ

ペロブスカイト・タンデム・有機薄膜…次世代太陽電池開発を推進、NEDOが考える日本の現在地

ペロブスカイト・タンデム・有機薄膜…次世代太陽電池開発を推進、NEDOが考える日本の現在地

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)再生可能エネルギー部太陽光発電ユニットの松原浩司上席主幹㊥・鈴木敦之チーム長代理㊧・山本佳子ユニット長㊨

再生可能エネルギーの導入拡大の切り札となる「次世代太陽電池」。政府が2040年に20ギガワットの導入目標を掲げる「ペロブスカイト太陽電池(PSC)」のほか、2種類以上の太陽電池を積層して高効率化を図る「タンデム太陽電池」や、PSCと同様に薄くて軽く柔軟で、鉛を含まない「有機薄膜太陽電池(OPV)」などの社会実装が期待される。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、そうした多様な次世代太陽電池の研究開発を推進している。具体的には、グリーンイノベーション(GI)基金事業(※1)や、太陽光発電導入拡大等技術開発事業(※2)などだ。東京ビッグサイト(東京都江東区)で1月28日-30日に開かれた「再生可能エネルギー世界展示会&フォーラム」ではこうした事業の成果などを展示した。

次世代太陽電池をめぐっては、中国の研究開発が特に活発で、事業化競争は激化している。その中で、日本の現状や競争力をどのように評価しているのか。NEDO再生可能エネルギー部太陽光発電ユニットの松原浩司上席主幹と鈴木敦之チーム長代理に聞いた。(聞き手・葭本隆太)

※1:グリーンイノベーション基金事業:再生可能エネルギーや蓄電池、船舶など重点14分野における脱炭素化に資する企業などの取り組みについて、研究開発や実証から社会実装までを見据えて最長10年間支援する。次世代太陽電池分野はペロブスカイト太陽電池について、製品レベルの大きさで製造する工程の個別要素技術を確立する「次世代型単接合太陽電池実用化事業」(事業期間:21-25年度)や同電池の量産技術の確立や大規模実証を行う「次世代型単接合太陽電池実証事業」(同:24-30年度)などで構成する。
※2:太陽光発電導入拡大等技術開発事業:太陽光発電に関する▽導入拡大時の適地制約▽期待されるニーズの多様化▽効率的・効果的な運用・保守▽使用済みモジュールの大量排出とリサイクルおよび省資源化-といった課題解決に資する技術を開発する。事業期間は25-29年度。これまでに2つのペロブスカイト太陽電池を積層するタンデム化技術や浮体式洋上太陽光発電システム、ペロブスカイト太陽電池のリサイクル技術など24件が採択されている。

-GI基金の次世代型単接合太陽電池実用化事業(以下、実用化事業)が今年度で終了します。ここまでの進捗はいかがでしょうか。
 松原 計画目標に対しては順調です。(今年度中のPSC事業化を予定している積水化学工業など)一部の事業は前倒しで進んでいます。ただ、中国企業の事業化に向けた動きが非常に早く、計画目標に対して順調(というスピード)では、国際競争において相対的な遅れが生じてしまっています。

GI基金を立ち上げる前の2020年頃、PSCはまだ使いものになるかどうかさえ分かりませんでした。10年間の事業を立ち上げて本当に大丈夫なのか、という議論もありました。その中で、5年後の目標を設定し、2030年に(量産化を)実現する計画でスタートしました。しかし、22-23年頃から中国の研究開発が一気に活発化し、現在では30年(の量産化目標)では、中国の動きに到底追いつかない状況になっています。

-フィルム型PSCは、日本が研究開発で先行しているという見方がこれまでありましたが、現状の評価はいかがですか。
 松原 明確に勝っているとは言えません。中国企業のフィルム型PSCは自社発表ベースですが、積水化学の製品より高い変換効率を示しています。もちろん、自社発表だけでは信用できませんが、一定の水準の製品ができている可能性があります。一方、耐久性については、積水化学が一定の性能を実現しているのに対し、中国企業の製品は情報が乏しく、比較ができません。

「再生可能エネルギー世界展示会&フォーラム」で展示した積水化学のフィルム型ペロブスカイト太陽電池

-事業化競争が激化する中で、日本企業に求められることは。
 松原 スピード感はやや不足していると感じています。中国企業は「作ったら売り、駄目なら取り替えればいい」といった発想があります。一方、日本は確実な製品、安心できる製品を作ってから売り出すという動きです。それではどうしても遅れてしまいます。もちろん、不安定な製品を売り出してPSC自体の信頼を損なってはいけないという考えは重要ですが、製品を市場に出しながら改良していくという考え方も、もう少し必要だと感じています。

実証事業/耐久性の担保が重要に

-GI基金では、次世代型単接合太陽電池実証事業(以下、実証事業)が始まりました。社会実装に向けた最終段階になりますが、最も重要な課題は。
 松原 一つに絞るのは難しいですが、耐久性は重要なポイントです。変換効率が一定程度向上しても(寿命を)20年程度まで高められなければ、社会に広く受け入れられません。ただし、20年間検証してから製品化するわけにもいかず、ある程度の見込みで展開していく必要があります。その中で、企業としては一定の自信を持てる水準に高めなくてはいけません。

-PSCを社会に広く普及させるには製品の低コスト化が不可欠です。フィルム型の場合、透明電極やバリアフィルムといった部材の高コストが課題という声を聞きます。
 松原 その点は認識しています。GI基金で採択したプロジェクトの中には、それらを内製化して低コスト化を図ろうという動きもあります。各プロジェクトで研究開発を推進してほしいです。

-実用化事業では、主にフィルムを基板に用いた「薄くて軽い」PSCを支援してきましたが、実証事業ではガラスを基板に用いるパナソニックホールディングス(HD)の建材一体型太陽電池(BIPV)も支援します。狙いは。
 松原 GI基金事業は、既存の結晶シリコン太陽電池が設置できない場所に設置できる特性を(持つ太陽電池の実用化を)重視しており、必ずしも薄くて軽いPSCだけを対象にしてきたわけではありません。パナソニックHDのBIPVも既存の太陽電池では難しい窓ガラスへの置き換えが可能な製品として採択しました。

-実証事業の採択は今後増やしますか。
 松原 実証事業向けの予算は、採択済みの4件でほぼ消化します。(新たな予算措置などについて)経済産業省とも話をしていますが、今後の公募は未定です。

タンデム型/「日本製」生きる可能性も

-GI基金事業では、2種類以上の太陽電池を積層するタンデム型の支援も新たに始めます。
 松原 結晶シリコン太陽電池や化合物半導体太陽電池などとPSCを積層する研究開発を対象に、量産技術の確立や実証を推進します。すでに提案を公募しており、近く採択案件を公表する予定です。また、産業技術総合研究所がタンデム化に関わる基盤技術の研究開発を担います。具体的には、積層界面の設計や性能評価手法などがテーマです。

-タンデム型は、中国企業による研究開発がフィルム型以上に盛んです。その中で、日本に勝ち筋はあるのでしょうか。
 松原 国内市場ではシリコン太陽電池で一定のシェアを持つ日本企業があります。その置き換え需要に対しては強みが発揮できるでしょう。

鈴木 現在のシェアを維持していくためにも、タンデム化を図らないといけないという意識の企業があります。また、安全保障の観点から(中国製品が敬遠されるケースが考えられ、)価格だけで勝負しなくてよく、日本製が評価される市場がグローバルで見いだせる可能性も出てきています。

-タンデム型は、太陽光発電導入拡大等技術開発事業(以下、導入拡大事業)でも支援しています。二つの事業のすみ分けは。
 鈴木 GI基金は量産化を目指すところまでコミットしてもらい、早期に生産ラインを立ち上げることを目指します。一方、導入拡大事業はやや基礎研究寄りで、タンデム型の可能性を幅広く探りたいと考えています。そのため、二つのPSCを重ねたタンデム型など、次世代太陽電池のさらに次の世代にあたる技術なども採択しています。

有機薄膜/特徴ある材料で差別化

-導入拡大事業では、有機薄膜太陽電池(OPV)の研究開発も2件採択しています。
 鈴木 OPVは、(研究開発対象の選択と集中の観点から)一時期は支援対象から外れていました。PSCなどとの変換効率競争でかなり後れを取っていたためです。ただ、近年は性能が向上してきており、鉛を含まないなどPSCとは異なる特徴もあります。前身の「太陽光発電主力電源化推進技術開発事業」(事業期間:20-24年度)では、23年度に支援を再開しました。導入拡大事業では、設置場所を含めた提案を公募し、建物の窓などに設置可能なシースルー型OPVと、農業ハウスで発電と作物育成を両立する波長選択型OPV(※3)の研究開発をそれぞれ採択しました。

※3:波長選択型有機薄膜太陽電池:農作物の生育に必要な青色光と赤色光は透過し、光合成への寄与が少ない緑色光で発電する有機薄膜太陽電池
関連記事:〝もう一つの次世代型〟「有機薄膜太陽電池」、営農型に勝機あり
関連記事:「有機薄膜太陽電池」社会実装へ、研究開発プロジェクトの全容

-OPVは設置の柔軟性に期待しているということでしょうか。
 鈴木 差別化の要素は、これから詰めていく必要があります。変換効率は(向上してきたとはいえ、PSCなどに比べて)劣るため、それをどのように補うかは目下の課題です。差別化にはどのような性能が必要で、どれくらいのコストで作らなくてはいけないのか、そうした戦略を洗練させていかなければいけません。

「再生可能エネルギー世界展示会&フォーラム」で展示したシースルー型の有機薄膜太陽電池

-OPVもPSC同様に中国の研究開発が活発です。勝ち筋はありますか。
 鈴木 中国に対して、日本はビハインドの状況にあります。ただ、大学で特徴ある材料開発が進んでおり、我々のプロジェクトにも参画してもらっています。広島大学大学院先進理工系科学研究科の尾坂格教授は、工程数を抑えることで高性能の材料を低コスト化しています。また、大阪大学産業科学研究所の家裕隆教授は、緑色光を選択的に吸収する材料を開発しています。こうした個別の特徴を生かすことで、差別化できるのではないかと考えています。

【5刷】次世代型太陽電池の本命がよくわかる書籍「素材技術で産業化に挑む ペロブスカイト太陽電池」(技術監修:宮坂力)好評発売中
ニュースイッチオリジナル

編集部のおすすめ